2012/06/17

A Visioned Clown



幻  影

中原中也
Chūya Nakahara


私の頭の中には、いつの頃からか、
薄命さうなピエロがひとり棲んでゐて、
それは、紗の服かなんかを着込んで、
そして、月光を浴びてゐるのでした。





ともすると、弱々しげな手付をして、
しきりと、手真似をするのでしたが、
その意味が、つひぞ通じたためしはなく、
あはれげな、思ひをさせるばつかりでした。





手真似につかれては、唇も動かしてゐるのでしたが、
古い影絵でも見てゐるやう
音はちつともしないのですし、
何を云つてるのかは 分りませんでした。





しろじろと身に月光を浴び、
あやしくもあかるい霧の中で、
かすかな姿態をゆるやかに動かしながら、
眼付ばかりはどこまでも、やさしさうなのでした。








月の光 /  ドビュッシー


Sorry for closing comment column this time.

Smiley from millan.net

0 件のコメント: